国会で改正所得税法が成立した。これにより「高額納税者公示制度」、一般的な言い方をすれば「長者番付の発表」が廃止となった。世間一般には「ふーん」で終わってしまうことではあるが、おそらくいくつかの関係者にとっては「ついに決まったか」という感じであろう。

この制度について今さら細かく説明するつもりはないが、日本全国ありとあらゆる地域の高額所得者（年間所得税納税額1,000万円以上・年収で約3,600万円以上の個人）の氏名･住所・納税額を国がアナウンスしてくれるのである。

この「長者番付」は毎年5月の連休明けに発表されていたのだが、この5月という時期が商品取引業界にとっては非常に秀逸な時期であった。4月に入社した新入社員が一通りの研修を終え、実際の営業部に配属されるのがこの名簿の発表時期である。ご存知の通り4月1日に入社した場合であれば、7月1日まで営業活動を行うことはできない。そこで新人君の出番である。このリストは税務署ごとに発表されるため、入手するには税務署に直接足を運ぶ必要があるのだが、どのような大都市であっても、税務署というものはなぜか奥まったところにある。そこで、新入社員は各地の税務署を回り、名簿をを入手し、外務員証を手にする日までに、この名簿に電話帳から電話番号を記入していき、名簿を完成させるのである。

初めて獲得した新規がこの「長者番付」からという外務員も少なくないであろう。ある意味では「国家お墨付き」の優良見込み名簿であったのである。

これもご存知の通り、従来の商品取引の営業手法は「絨毯爆撃」に近い各種名簿からのテレコールであった。ひょっとしたら今現在もNTTの電話帳で営業を行っている取引員もあるかもしれない。しかしながら近年の個人情報保護の高まりにより、各種紳士録や業界名鑑は縮小傾向にある。名簿販売業者というものも、半ばブラックマーケット化しているといってもよいであろう。

直接的、間接的に商品取引やFX取引に関する規制が厳しくなったとしても、それを生業とする企業としては新規顧客を獲得し続けなくてはならない。こういった状況の中で、今後は商品取引・FX取引業界においても、「商品力」が重要になってくると考えている。では取引所取引である商品取引においての「商品力」とはいったいなんであろうか？

以前も述べたが、商品取引、FX取引とも基本的には手数料商売である。手数料自由化に関しては今さらなので詳しく述べないが、自由化になった場合にはディスカウントブローカー、もしくは正反対の（プレミアムブローカーとでも言うのであろうか）手数料を維持したまま高付加価値のサービスを提供するブローカーの2つに分かれる傾向がある。つまりは「ごくごくフツーの会社」では埋没してしまうのである。どちらに向かうかはそれぞれの企業の判断である。しかしながら、そのまま収益力のマイナスを意味する手数料の引き下げが最善の方法ではないということは一目瞭然である。

手数料の引き下げが全ての答えではないということは少しだけ考えればわかることである。手数料引き下げの究極は手数料0円である。もし投資家にとっての選択要素が手数料のみであるなら、手数料を0円にすれば理屈上は取引を独占することができる。では手数料0円の会社が2つあった場合にはどうなるだろうか？そうなれば手数料以外の部分の差になってくる。これが商品力というものではないだろうか？おそらくそれは「顧客サポート力」であり「サービスに対する満足度」といったものであろう。

OTCがほとんどであるFX取引においては、手数料が0円だとしてもスプレッドで収益を上げることは可能である。しかしながら、もし手数料で収益を上げることができたならば、顧客に対しより有利な条件を提示することができる。これも同じ商品力である。

商品力の競争は一般投資家にとっても好ましいことではないかと考えている。