株取引の世界ではあるが、ジョインベスト証券の取引手数料が発表された。言うまでもなく、ネット株取引世界での「真打登場」である。経済紙のみならず、一般紙においても大きく報道され、その論調は現在大手5社といわれる企業も含め「ネット証券の淘汰が進むだろう」というものが大勢を占めるようである。

「ネット証券に参入」という発表を行った当初から公言していたように「業界最安値」を目標にしたその手数料はどの取引ボリュームにおいても「手数料無料」以外の証券会社に比べ割安なものとなっている。

この報道を見たときに（株取引の世界には全くと言っていいほど興味がない私は）「ヤマト運輸 VS 郵政公社」の運賃競争合戦と同じ感覚を持った。もちろん野村證券は郵政公社の側である。実際行っていることもほとんど同じで、野村證券が設定した運賃（手数料）は、当事者はもちろん否定するだろうが、当面のライバルを超える「最安値」を目指したものであるからである。もちろん民間企業と（曲がりなりにも）国営企業という点で、大きな違いはあるのだが・・・。

これもご存知の方が多いと思われるが、このジョインベスト証券の前身は野村證券が製作する投資教室などの映像配信会社である。あまり成功したとはいえないこの事業の後という呪縛から開放されるかどうか、お手並み拝見である。目標のイートレード証券は100万口座を有している。

さて、野村證券が外国為替証拠金取引（FX取引）に参入する際にはこのジョインベスト証券を通じての参入といわれている。ご存知のように大手3社（野村・日興・大和）の中で唯一FX取引を行っていないのが野村證券であるが、情報によると近日中にFX取引の情報を始めるべく準備を行っている。そしてその取引は「くりっく365」ではなくOTCで行われるのであろうとの見方である。

ではこの野村證券がFX取引に参入した場合FX取引の世界でも「真打登場」となれるだろうか？現在の状況を考えるとその答えは「NO」となる公算が大きい。（もっと言うのであれば、当の野村證券もFX取引の世界でトップを取るつもりはおそらくないであろう。）現在においてFX取引は一部マニアの「趣味的商品」である。野村證券の参入によりFX取引の「知名度」という裾野は広がるかもしれないが、「利用者」という最も大事な裾野はそれほど広がることはないのではないかと考えている。前回までと同じ結論になってしまうが、やはり今後のFX取引市場発展の鍵は、一般の人達を取り込むことができる商品開発力にかかっていると考えている。そういった意味において、取引自体の知名度を上げることができる大手企業の参入はチャンスである。

日本におけるFX取引の市場規模はここ数年爆発的に拡大した。しかしながらその数は多く見積もっても25-30万口座である。「FX取引は十分に市民権を得た」という一部関係者も存在するが、この日本においてFX取引はまだまだマイナーな商品である。確かに数万円から始めることができるその手軽さと、スワップという独特のシステムを持ったこの取引は、一部の人達を熱狂させたのは事実である。そしてまた、投資経験をそれほど有していない、特に男性を中心にした若い人達を取り込むことにも成功した。

現在のFX取引の多くは「ハイリスク・ハイリターン」を追及した、投機的なものが多いという印象である。もちろん「ハイリスク・ハイリターン」はFX取引の存在意義であることに疑いはないし、またそれこそがFX取引の魅力である。しかし一般の人達、いわば「素人」を今以上に取り込もうとするのであれば、投機色を今よりも薄くしたほうが受け入れられるのではないかと考える。つまり、初心者が手を出すことができる商品ラインアップが圧倒的に少ないのである。新聞発表でもあったように、「倍率1倍から」という、もはやFX取引ということができない商品をラインアップしたジャパンネット銀行が、開始2日間で月間の目標口座を達成したということは、「ミドルリスク・ミドルリターン」を求めている人も、FX取引が爆発的普及をしたことと同じようにまた存在するのではないかと考えるのである。

中小の企業が多くを占める日本のFX取引において、ブランドは大きな武器になる事は間違いない。もし野村證券が前述のような「ミドルリスク・ミドルリターン」商品を引っさげて参入した場合はその営業力とあわせ強力な布陣となるが、おそらくその可能性はそれほど大きくないであろう。なぜなら、大企業であるがゆえに期待される利益水準も大きくなる。そしてOTCである以上「ミドルリスク・ミドルリターン」商品では企業にとって、それほどの利益が期待できないからである。